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リーマン面入門

<!doctype html> リーマン面入門

リーマン面の定義

まず、いきなりリーマン面の定義から入りましょう。リーマン面とは要するに、連結な一次元複素多様体の事です。ちゃんと書くと、位相空間がリーマン面であるとは

 

は連結なハウスドルフ空間である。

あるの開集合系があって、の開被覆)である。

各々のは、の開集合への同相写像が存在する。

なるに対し、座標変換

は正則写像である。

 

という風になります。平たく言うと、局所的にはと同じと見てよい対象です。ではこれから具体例を見ていきましょう。

 

対数函数の一意化リーマン面

 

ところで複素解析に於いては、実函数としての対数函数はどのように拡張されて定義されたでしょうか?即ち、に対して

となるを決めたい訳ですが、、及びと置いて

となるようなにしたい、と思うのは自然な考えでしょう。そこで、単純に

つまり

としてみたいのですが、ご存知の様にはグルグル回って同じ値をとるので、を任意の整数として

としてもを充たします。函数とは、全ての定義域の元に対して値域の一つの元を対応付けるものです。これでは不都合なので、を充たすようなのみ許すとして、対数函数を

で定義したくなってきます。ところが、今度は非負の実軸上の適当な点に上から近づけたら、下から近づけたらとなってしまいます。連続函数にしたいので、定義域をではなくに制限して、やっとこさまともな対数函数が定義できて、これを対数函数の主値と言い、と書くのでした。こんな面倒くさいことを考えずに、もっと自然な対数函数の定義域を考えることはできないでしょうか?そこで自然な発想として、非負の実軸に下から近づけて元の複素平面に戻るんじゃなくて、もうそこで複素平面に切れ目を入れてしまって、別の複素平面にスルッと移ってしまえばいい!と考えたくなってきます。この考え方をちゃんと定式化したのが、対数函数の一意化リーマン面です。

 

あまり詳しいことは専門書に譲りますが、まあ要するに、大雑把に言うと以下のような感じです。まず最初に、を用意しておきます。これはの主値の舞台となるものでした。正の実軸は、切れ目に相当します。次に、元の複素平面に切れ目を入れたものの下側を、もう一つ同じものを用意して、切れ目の上側を繋げます。この上でとしておけば、見事に対数函数が滑らかに繋がっています。このような操作を、もう一つの切れ目にも行うということを可算無限回繰り返して行くのです。ウィキペディアの画像が視覚的に分かりやすいです。

 

3.の中のリーマン面

 

実可微分多様体の典型的な例は、の内、いくつかの函数による制約条件を充たすような部分集合で、陰函数定理の仮定を充たすような(直感的に言えば、カクカクした点のない)ものでした。今度は、に於いても似たようなことがしたくなってきます。即ち、の多項式として

を考えてみましょう。これは実平面曲線の拡張で、複素平面曲線と呼ばれるものです。と置くことで、なる函数と見ることができます。まずは、陰函数定理からに可微分多様体の構造が入る条件を見てみましょう。即ち、ヤコビ行列

の階数がである、言い換えれば、適当な行を二つ取ってきて並べて、それが正則な行列にできるということです。ここで、複素微分は

で定義されたことを思い出しましょう。の列と行に、を掛けて足したり引いたりすれば

となります。の多項式であったので、となって、結局

となって、陰函数定理による条件は

の階数が、即ち零ベクトルにならないという条件と同値になります。よって、この条件を充たすとき、は可微分多様体の構造が入ります。さらに、これにリーマン面の構造が入ることをいう為には最初に示した条件を充たすことを言わなければなりませんが、実は、この条件を充たしさえすれば自動的にリーマン面の構造が入ることは証明できます。ただし、この構成によるリーマン面は閉集合ですが、コンパクトになるとは限りません。即ち、有界になるとは限りません。そこで、コンパクトリーマン面を構成するための準備として、複素射影空間即ち、から原点を取り除いた空間の、定数倍を同一視する同値関係による商空間がコンパクトになることを示してから締めくくることにしましょう。

 

結論から言うと、球面の元に対しての同値類を対応付ける写像が、実は連続函数になっていることを確かめます。まず、この球面は有界閉なのでコンパクトであることは言うまでもないでしょう。の開集合からの商写像の逆像は、の各元の代表元全てを取ってきた集合であり、商位相と誘導位相の定義によりこれはの開集合です。この集合と球面の共通部分は、誘導位相の定義によりの開集合です。このが、まさに球面の元に対してその同値類を対応付ける写像による、の開集合の逆像になっています。よってこれは連続函数であり、連続函数によるコンパクト空間の像ですから、射影空間もコンパクトになります。

 

参考:寺杣友秀「リーマン面の理論」