セグレ埋め込みと射影多様体の積（１）～代数幾何学～

セグレ埋め込みと射影多様体の積（１）～代数幾何学～

ここでは、射影多様体同士の積を定義するために必要な、セグレ埋め込みを考察します。セグレ埋め込みとは大雑把に言えば、二つの射影多様体の直積集合を次元の大きい射影空間に埋め込んで、誘導位相を入れることです。

局所閉集合の三つの同値な定義

代数幾何学に於ける準アファイン多様体或いは準射影多様体とは、要するに、開集合と既約な閉集合の交わりです。まず、基本的な事実を確認していきましょう。

命題：

位相空間$X$に於いて、既約集合$A$の開集合$O$は既約である。

証明：背理法により示す。$O$が既約でないとすれば、$O \cap U$及び$O \cap V$が真に$O$に含まれるような$X$の閉集合$U,V$で$O=(O \cap U)\cup(O\cap V)$となるものがとれる。明らかに、$A-O$は$A$の閉集合で、$A=(U \cap A)\cup(V \cap A) \cup(A-O)$が成り立つので$F$は既約でない。

$\square$

命題：

位相空間$X$に於いて、既約集合$A$の閉包も既約である。

証明：背理法により示す。閉包$\bar{A}$が既約でないとすると、$\bar A$との交わりが真に$\bar A$に含まれるような$X$の閉集合$Y,Z$があって$\bar A =(\bar A \cap Y) \cup(\bar A \cap Z)$となる。よって$A=(A \cap Y) \cup(A \cap Z)$となる。$A$が既約であるから、$A \cap Y =A$または$A \cap Z =A$、つまり$A \sub Y$または$A \sub Z$が成り立つが、閉包の定義（集合$A$を包む全ての閉集合の共通部分）により$\bar A \sub Y$または$\bar A \sub Z$となる。これは仮定に矛盾。

$\square$

命題：

位相空間$X$に於いて、既約成分（極大な既約集合）は閉である。

証明：既約成分$A$の閉包$\bar{A}$をとると、これも既約である。$A$の極大性により、$A=\bar A$でなければならない。

$\square$

命題：

任意の位相空間$X$には既約成分が存在する。

証明：

任意に$x \in X$をとる。$x$を含む既約集合の全体$U$を考える。例えば$\{x\}$もそのような条件を充たし、これは空でない。$U$には包含関係により順序が入る。$U$の適当な全順序集合$W$に対し、$W$の各元の合併を$V$と置く。$V$は既約である。実際、既約でないとすれば$V$との交わりが真に$V$に含まれるような閉集合$Y,Z$で$V=(V \cap Y) \cup (V \cap Z)$となるが、$W$の各元$A$に対し$A=(A \cap Y) \cup (A \cap Z)$で、$A$は既約であることにより$A \sub Y$または$A \sub Z$が成り立つ。故に$Y$か$Z$のいずれかは$W$の各元の合併$V$を含む。これは仮定に矛盾。即ち、$V$は$W$の上界であり、ツォルンの補題により$U$には極大元$\cal I_x$が存在する。これは$x$を含む$X$の既約成分である。

$\square$

以下に述べる同値な定義の内の一つを述べると、局所閉集合とは開集合と閉集合の交わりです。ザリスキ位相に於いて、局所閉集合の閉包が既約であるならば、これは準アファイン多様体或いは準射影多様体になることが分かります。感覚を摑むため、まずは局所閉集合について考察しましょう。位相空間$X$の部分集合$A$が局所閉であることについての、以下の三つの定義が同値であることを観察します。

命題：

位相空間$X$の部分集合$A$について、以下は同値である。

$(1)$任意の$x \in A$に対して$U_x \cap A$が部分空間$U_x$の閉集合であるような$x$の近傍$U_x$が存在する。

$(2)$開集合$O$と閉集合$F$の共通部分$A=O \cap F$の形で表せる。

$(3)$その閉包の開部分集合である。

証明：

$(2) \Rightarrow (1)$開集合$O$と閉集合$F$の共通部分$O \cap F$は、任意の$x \in O \cap F$に対して $O \cap F$は$O$の閉集合となる。

$(1) \Rightarrow (2)$各$x \in A$に対して$x$の近傍$U_x$と$X$の閉集合$F_x$が存在し、$A \cap U_x=F_x \cap U_x$と書ける。$x \in O_x \sub U_x$となる開集合をとると、$A \cap O_x=F_x \cap O_x$が成り立つ。よって$A \sub F_x \cup(X\setminus O_x)$が言えて

$$A \sub \cup_x O_x\cap (\cap_x\{F_x \cup (X\setminus O_x))\\ =\cup_x(O_x \cap (\cap_y(F_y \cup (X\setminus O_y)))\\ \sub \cup_x(O_x \cap(F_x \cup(X \setminus O_x))\\ =\cup_x(O_x \cap F_x)\\ =\cup_x(O_x \cap A)\\ =A$$

となることより、$O=\cup_xO_x,F=\cap_x \{F_x \cup (X \setminus O_x)\}$と置くことにより

$$A = \cup_x O_x\cap (\cap_x\{F_x \cup (X\setminus O_x))$$

となることが言える。

$(3) \Rightarrow (2)$明らか。

$(2) \Rightarrow (3)$局所閉集合$A=O \cap F$に対してその閉包$\bar A$をとると

$$A=O \cap F \cap \bar A=O \cap \bar A$$

となり、$A$はその閉包の開部分集合。

$\square$

ある位相空間の部分集合が局所閉であるとは、上で述べた三つの同値な条件の内の一つ（よって全て）を充たすものと定義します。

セグレ埋め込み

ある準アファイン様体または準射影多様体の局所閉集合は、やはり準アファイン多様体または準射影多様体です。ここで、射影空間$\mathbb P^n$と$\mathbb P^m$の元の順序対$(a_0:a_1:\cdots :a_n) \times (b_0:b_2:\cdots b_m)$に、$N:=(n+1)(m+1)-1$として$\mathbb P^N$の元$(a_0b_0:a_0b_1:\cdots:a_nb_m)$を対応付ける写像$\psi$を考えます。$\psi$はその形から単射であることが分かり、これをセグレ埋め込みと言います。セグレ埋め込みの例は、[2]ハーツホーン-代数幾何学１のp.18演習問題2.15にありますが、ここでは$\psi$による$\mathbb P^n \times \mathbb P^m$の像が射影多様体であることを示しましょう。

証明：

まず$z_{ij}$を$\mathbb P^N$の斉次座標として、$z_{ij}$を$x_iy_j$に対応付ける準同型$k[z_{00},z_{01},\cdots,z_{nm}] \rightarrow k[x_0,x_1,\cdots,y_m]$の核を$\frak a$とすると、${\rm Im}(\psi) \sub Z(\frak a)$は明らか。逆に$(c_{ij})\in Z(\frak a)$とすると、$c_{i_0 j_0} \neq 0$となる$i_0,j_0$がある。$\frak a$の元として特に$z_{ij}z_{i_0 j_0}-z_{i j_0}z_{i_0 j}$を選んで考えると、$(c_{ij})$の任意の代表元は

$$c_{ij}=\frac{c_{ij_0}c_{i_0j}}{c_{i_0j_0}}$$

なる関係を充たす。よって、$a_i=c_i/c_{i_0j_0},b_i=c_{i_0j}/c_{i_0j_0}$とすると$(c_{ij})=\psi((a_i),(b_i))$となることから、${\rm Im}(\psi)=Z(\frak a)$が言える。これは、射影空間同士のセグレ埋め込みが閉集合となっていることを示す。$\square$

次に、より一般に、準射影多様体同士の積が準射影多様体となり、（圏論的に）いい性質を持つことを証明するため、その準備として、$H_i$を$x_i=0$で定義される$\mathbb P^n$の閉集合、$H^\prime_j$を$x_j=0$で定義される$\mathbb P^m$の閉集合として、$(\mathbb P^n-H_i)\times(\mathbb P^m-H_j)$が$\mathbb A^{n+m}$と同型であることに注意しましょう。これにより準射影多様体同士の積を被覆し、アファイン多様体に於ける議論（[2]の演習問題3.14参照）を援用することが可能になりますが、これは簡単に確認することができます。以下に証明なしで書いておきます。

命題：

$(\mathbb P^n-H_i)\times(\mathbb P^m-H_j)$と$\mathbb A^{n+m}$は同型である。

セグレ埋め込みと射影多様体の積（２）～代数幾何学～

https://tech.j-ij.com/entry/2021/03/27/152104

に続きます。

（２）では射影多様体の積、つまりセグレ埋め込みに位相構造を入れたものを考察し、射影空間の部分集合として射影多様体になっていることを理解します。