Jij Tech Blog

Jij inc.の開発日記です

直感的「環・加群入門」

直感的「環・加群入門」

ご存知の様に、などの体の直積には、ベクトル空間の構造が入っています。例えばなら、に対し、和と体の元によるスカラー倍が定義されていて、和に関して可換群であり、且つ

の四つの性質を持っています。

 

ベクトルを一般化したものとして、上のベクトル場を考えてみましょう。ベクトル場とは、の各元に対しての元を対応付ける函数でした。当然ながら、基底をそれぞれと書いたとき、ベクトル場は、函数を用いて

のように表されます。それぞれの級の時、ベクトル場級ベクトル場と呼ばれます。ところで、ベクトル場にはベクトルと同じように和が定義されていて、さらに、上の級函数倍が定義できます。

 

函数全体の集合の違いとは

 

ところで、及び上の級函数の全体には、本質的にどのような違いがあるでしょうか?には加減乗除が定義されていて、このことをは体であると言います。一方、函数同士は、和、差、積のそれぞれはと同じように定義できますが、上のどこかでになるような函数による除算は定義されません。このことを、級函数の全体には環の構造が入っていると言い、環の構造が入っているものとして級函数の全体を見たものを、級函数環と呼びます。

 

他にも環の構造が入っている代表的なものとして、整数環や、体上の多項式環が挙げられます。多項式環とは、単純に多項式の全体を和と積の入っている集合と見た、というだけのことです。この意味で、環は整数や多項式全体の集合の類似物であるという感覚も持てます。

 

先程も述べたように、級ベクトル場の全体には、級函数環の元によるスカラー倍が定義されています。しかし、ベクトル空間とは、体の元によるスカラー倍が定義されているものです。環に対しても、体上のベクトル空間と似たような数学的対象が考えたくなってきます。まさに、ベクトル空間の定義、即ち

 

と体の元によるスカラー倍が定義されていて、和に関して可換群であり、且つ

の四つの性質を持っている

 

の、「体」の部分を「環」で置き換えたものを、「加群」と言います。要するにベクトル空間とは、体上の加群です。「加群」という言葉を用いれば「級ベクトル場全体の集合には、級函数環上の加群の構造が入っている」と一口に言うことができます。

 

ここであまり詳しく述べることはしませんが、一般に、環上の加群にはベクトル空間の時の様に必ず基底が存在するとは限りませんが、(ベクトル空間には、たとえ無限次元であっても基底が存在することは、選択公理と同値はツォルンの補題を使えば証明できることが知られています。)基底の存在する、言い換えれば、環上のある加群がのように代数的直和分解できるとき、これを自由加群と言います。上で見たように、級ベクトル場の全体は級函数環上の自由加群です。

 

実は、このような見方をすることによって、多様体上の微分形式や、函数の微分もヒルベルト空間上の作用素環などとして、スッキリ統一的に考えることができるようになります。

ここで見たような加群の様に、抽象化された最低限の定義を用いることで、代数的対象に留まらず、幾何や解析的対象にまで統一的な視点を与えることができるというのが、代数学の利点でもあり、面白さでもあります。