Jij Tech Blog

Jij inc.の開発日記です

単位円上の有理点のなす群と、p=a²+b²の形に表せる素数

単位円上の有理点のなす群と、の形に表せる素数

 

本記事では、単位円上の有理点のなす群を考察します。単位円上の有理点は、「ピタゴラスの三つ組」、つまり

を充たすの全体の、定数倍を同一視した商集合に一対一対応しています。

 

まず、結構知られていることだとは思いますが、単位円上の任意の有理点がパラメータを用いて表示できることから復習していきましょう。

 

を通る、傾きの直線は

と表せます。単位円

との交点を求めるためには、二つの式を連立させて解けば良いです。つまり

整理して

だから、結局、交点は

と表示できます。これらにを付け加えれば、単位円上の有理点の全体は

のような形になっています。

 

さて、当然ながら、単位円上の点には「角度」が対応していて、単位円上の点の回転に対応する「群」を考えることができます。つまり、演算を

により定義するということです。有理点に限らない、全ての単位円上の点のなす群はと呼ばれるものですが、その中で有理点のなす部分群を考察してみましょう。

 

と既約分数で表示すれば

の形になります。言い換えれば、ピタゴラスの三つ組はいつも

の形をしているという訳です。虚数単位を使って、対応する複素数

を考えます。単位円上の点のなす群を「良く知る」ためには、どんな群と同型になっているか、言い換えれば群の「生成系」を知りたくなってきます。(有理点は可算個ですから、高々可算個の群の直和または直積で表されるでしょう。)その為には、「どのような条件の下での元は分解(二つの元の積で表されるか)できるか?」を考えるのが重要です。

 

そこで、ガウス整数環

を考えます。平面の上で、原点を結ぶ直線と軸に平行な直線は点で交わりますが、上で考えた

なる写像と合わせれば、ガウス整数環の乗法群からへの写像

を得ます。これが全射になっていることは定義から明らかです。さらに

が成り立っていて、は対応する角度が2倍のものに写し、及びのそれぞれの群演算も回転を意味しているので

が成り立つことは直感的にも明らかでしょう。つまり、はアーベル群の全射準同型になっているということです。

 

 

ところで、ガウス整数環は代数学の分野で良く調べられている対象です。の既約元に関する基本的事実を証明なしで引用しておきます。例えば「https://pomb.org/pdf/2015algebra.pdf」が参考になるでしょう。

 

定理:の既約元は、以下のもののみからなる。

 

有理整数(に於ける素数)に対し、またはならば、となるようなが一意的に存在し、は既約である。

有理整数(に於ける素数)に対し、ならばに於いても既約である。

 

例えばに関しては

となっていて、の例を挙げるとすれば

となっています。

 

 

この結果を、単位円上の有理点のなす群に適用してみましょう。

 

は一意分解整域なので、素因数分解の一意性が成り立つことにより、の任意の元は上のような既約元たちの積で書けます。準同型は全射準同型なので、やはりの元はそれら既約元たちの像の積で書けます。(一意性は、この時点では保証されません。)言い換えれば、の既約元の像がの生成系になっているということです。

 

の形の既約元のに於ける像は

です。

 

の形の既約元の像はとなっています。

 

 

さて、これらより、の生成系として

がとれることが分かりました。ここで、式に現れるは素数を動き、とします。

 

例えばの場合、よりととれて

のようになっており、これはの位数の部分巡回群を生成し、その中にはの単位元も含まれます。

 

これら生成系の間に関係はあるのでしょうか?つまり、もし自明な関係しかないとすれば、準同型定理により、は生成元のそれぞれが生成する部分群の直和になっていることが言えます。これに関しては、実際、自明な関係しかないことが言えます。

 

補題:

は非自明な関係を持たない。

 

証明:

あるがあって

を充たすとすれば、に引き戻して考えると

となる。即ち、あるがあって

でなければならない。故に、素元分解の存在と一意性により、である。

 

 

上の証明から、でないならば

の形の元は何倍してもになることがない、つまりこれにより生成される部分巡回群の位数は無限であることも分かりました。以上により、の場合の

により生成される部分群、及びなる素数の場合の

により生成される部分群の直和、即ち

となることが分かりました。

 

これは、単位円上の有理点のなす群と平方数の和で表される素数についての、とても面白い関係と言えるのではないでしょうか?

 

ついでにですが、実は、ガウスの整数環は体の中で係数多項式の根になるようなものを全て集めたものになっています。一般に、体が有理数体を含み、上のベクトル空間として有限次元の場合(これを、有限次拡大であると言います)、の元で、ある係数多項式の根になっているようなものの全体(これを、に於ける整閉包と言います。)は「代数的整数環」と呼ばれるもので、デデキント整域というある特別な環になっていて、デデキント整域に於いては普通の整数環における素因数分解のある種の一般化である「イデアルの素イデアル分解」ができるという性質を持っています。ここではこれ以上詳しいことはあまり述べませんが、もし興味を持った方がおられれば、「代数的整数論」方面の文献を見るといいかも知れません。

 

また、このように、ある体の上で定義された、多項式により表される図形の点の間に群構造が入るようなものは、代数幾何や数論幾何でよく研究されている対象でもあります。有名どころとしては楕円曲線があり、その一般化として群多様体やヤコビ多様体、アーベル多様体と言ったものがあります。個人的には、純粋に代数的な議論をやるよりは、この記事のような幾何的直感の働く議論の方が好きなのですが、皆さんはどうでしょうか?もし興味を持たれたら、宣伝と言う訳ではありませんが、永井保成先生の「代数幾何学入門:代数学の基礎を出発点として」はお薦めの本です。

 

参考:

https://pomb.org/pdf/2015algebra.pdf

https://www.maa.org/sites/default/files/pdf/upload_library/22/Allendoerfer/1997/0025570x.di021195.02p0087x.pdf

雪江明彦「代数学2 環と体とガロア理論」